2008年01月18日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

「デッドライン仕事術」 に関する話の続き


こんにちは。水口です。

今日は一昨日の話の続きです。


■ 「デッドライン仕事術」スタイルでやるための条件 (続き)

一昨日、「デッドライン仕事術」という本に書かれていた
仕事のやり方(吉越浩一郎さんがトリンプで実践したやり方)を、
実行するために必要なポイントについての話をしました。

吉越さんの「即断即決」スタイルで仕事を進めるためには、
「社長がリスクを引き受ける覚悟がある」というのが、1つの
条件になるはずです。

  もちろん、「社長」ではなく、「部長」や「事業部長」の場合も
  あるでしょうが、それも同じことです。

トップがリスクを引き受けられるかどうかが、意思決定のスピードに
影響するわけです。


そして、これと似ているのですが、もう1つポイントがあると思います。

そのポイントとは・・・ という話に関連して、

こういう即断即決スタイルで働く場合、社員はどう感じるか? 
について、考えてみます。


■ 即断即決だと、部下は大変か?

一昨日紹介した吉越さんのやり方というのは、
「早朝会議」+「デッドライン管理」で進めるやり方です。


  朝の会議で、懸案事項に対しての報告があり・・・
  社長はそれについて、即判断を下す。
           ↓
  「やるべきこと」と、次の報告の期限を決める
  次の報告までの期間はできるだけ短くする。
  多くの場合、報告の期限は翌日になる。

というスタイルです。


こういうスタイルだと、次の報告までの時間が短いので、
部下は大変です・・・・ 



いや、本当にそうでしょうか?

・・・私は、そうでもないと思います。


実際、一昨日の「早朝会議」での「即断即決」の話を聞くと、
ある程度の人数の人たちは、「うらやましい」と思ったはずです。

「うらやましい」と感じた人は、普段、上がなかなか決断しないために
仕事量が増えてしまっている人たちです。

  たとえば、ある投資案件(新店舗の出店や、新設備導入など)に
  対して、なかなかGoがかからないケースって、困りますよね。

  時間をかけてフィージビリティスタディ(費用対効果調査)を行った
  にもかかわらず、「投資額をもう少し圧縮できないか」という横槍が
  何度も入ってしまうと、仕事は前に進みません。

  もちろん、投資額を圧縮できる可能性について、充分に検討する
  ことは、必要なことです・・・。

  しかし、何度も何度も差し戻しされてくると、しまいには、
  「結果ありきのフィージビリティスタディ」 つまり、
  投資額を前提に収益性のつじつま合わせをしたり・・・。

  あるいは、投資額を圧縮されることを前提に、最初は
  水増しした投資計画を提出したり・・・。

  といったことになりかねません。

  これは、本来の意味での収益性や、事業プランを考えることよりも、
  社内のかけ引きにエネルギーを浪費しているようなものです。

  普段、こういう部分で自分をすり減らしがちな人は、
  「早朝会議」のスタイルをうらやましいと感じているはずです。


話がそれましたので、戻します。

「早朝会議」+「デッドライン管理」の話を聞くと・・・

毎日毎日、「翌日まで(実質、今日中)」の仕事をしている
社員はさぞかし大変だろう・・・と思う人もいるかもしれません。

しかし・・・、このやり方を逆に見れば、その日は、その仕事1本に
集中できるというメリットもあります。

「早朝会議」+「デッドライン管理」というスタイルは、
結論が出るのが早い分、抱え込む仕事の量自体は、
少なくなるというメリットがあるのです。

むしろ、普通のやり方、つまり、1つ1つの仕事のリードタイムが長く、
その代わり複数の仕事を常に掛け持ちしているほうが、かえって
混乱させられたり、ストレスがたまったりすることが増えます。


この2つのやり方は、シングルタスクとマルチタスクと考えることもできます。
(「早朝会議・・・」がシングルタスク、普通がマルチタスクです)

そして、人間は基本的にシングルタスクのほうがストレスを
感じにくいですし、仕事の効率も上がります。

 ※ 1つの仕事に集中しているときと、メールをチラチラ見ながら
   仕事をしているときの能率を比較してみればわかります。

 ※ 「時間術」系の本ではよく、「マルチタスクのほうが効率が上がる」と
   いう話が出てきますが、そこで取り上げられている事例の多くは、
   「企画」系要素が強い仕事です。
   そういう仕事に関しては、私もマルチタスクのほうが能率が上がると
   感じています。(アイディアを寝かせる時間が必要だからです)


でも、普通の組織だと、シングルタスクだと「手待ち」の時間ができて
しまう(次のアクションを決める意思決定に時間がかかる)ので、
やむなく、必然的にマルチタスクになってしまうわけです。

 ※ こういう職場なのに、シングルタスク的な仕事しかできない人は、
    それはそれで、仕事の能率を上げられません。

    ですから、普通の職場ではマルチタスク的能力は必須なのは
    間違いないのですが、それは理想的な姿ではないのです。


さて、シングルタスクとマルチタスクは、どちらも、手待ち時間をゼロに
するような、完璧な運用をするのは不可能ですから、実際に(組織として)
どちらのやり方のほうが能率がいいかは、微妙なところもあります。

しかし、「ストレス」という意味ではシングルタスクのほうが少ないのは、
間違いないと思います。


・・・だから、「早朝会議・・・」スタイルは、社員にとって悪いこと
ばかりではないのです(むしろ、いいことが結構多い)。




最初のほうで言った、もう1つのポイントというのは、
トップが積極的に「やめる」という決断をしているかどうかです。

見込みの無いアイディアや、見込みのないプロジェクトは、切っていくこと。

これができなければ、担当者が抱える仕事は増える一方ですから、
シングルタスクで仕事をすることができなくなってきます。
(マルチタスクで短納期という最悪のパターンです)


しかし、一度出たアイディアや、検討を始めたプロジェクトを
切る(やめる)決断をするのは、難しいことです。

特に、サンクコスト(既に投入済みの資源)がある場合には、
それが決断を鈍らせることになりがちです。
(サンクコストに、検討のために費やした時間や手間を
 含めると・・・なおさらです)

それをきっちりやるには、かなりの合理的思考力が必要だと思います。
(普通、サンクコストに振り回されるのが人間ですから・・・)



ちょっと、言葉足らずだったかもしれませんが・・・

「あれやれ」「これやれ」と、部下の仕事を増やすばかりで、
部下の仕事を減らせないタイプの上司が早朝会議を仕切ると
大変なことになるのは・・・容易に想像できるのではないでしょうか。

「やめる」「やらない」という決断ができない上司は、
「早朝会議・・・」スタイルを取らないほうがいいと思います。



先の「デッドライン仕事術」という本には、吉越さんの
「撤退」に対する考え方も述べられていましたので、
「やっぱり、その判断ができる人なんだ」と、私は納得したわけです。




おまけの話ですが・・・

私は「やめる」「やらない」という判断ができる能力と、
「戦略的」に物事を考えられる能力には、
相関関係があると考えています。

そして、この能力は、(私も含めて)日本人が
苦手としがちな領域なんですよね。
その分、意識的にならなければいけないのかも・・・。


今日の記事作成時間は69分でした。

では、また明日!


このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなにブックマーク
Posted by 水口和彦 at 23:55│Comments(2)TrackBack(0)

時間管理術研究所の無料メールマガジンで
モチベーションアップしてみませんか?
メールアドレスを入力すれば登録できます! → 
バックナンバーはこちら
Copyright (c) 2005-2014 BizARK Inc. All rights reserved.
この記事へのトラックバックURL
(参照リンクの無いトラックバックは受け付けておりません)
この記事へのコメント
私見ですが、
一時は世界中から羨望の眼差しで見られていた日本企業が、
世界の劣等性といわれるようになってしまったことについて、
水口さんがおっしゃるこの日本人の戦略的思考の不足が深く関係しているように感じています。
今の日本企業は、そこを見誤り、本来持っていた強みも捨てて、
右往左往しているような気がしてならないのですが、、、
いかがものでしょうか。
Posted by makoto at 2008年01月21日 04:02
水口です。
makotoさん、こんばんは。

いまの日本が「戦略的」に弱い。というのは、間違いないと思うのですが・・・
なかなか、難しい問題のような気もするんですよね。
高度経済成長期(の少なくとも後半は)、あまり戦略的な思考が
必要とされなかった時期のような気もするんです。

となると・・・「戦略的思考」が弱いのはいつからなんだろう?
と疑問になってくるんですよね。
もしかしたら、昭和に入った時点では、もうヤバかったのかもしれません・・・。
(反面、そうではないという気もするのですが・・・)
Posted by 水口和彦 at 2008年02月06日 22:20
 

※ スパムコメントがあまりに多いため「http://」は使用不可の設定にしています。
  URLをご紹介頂く場合は「http://」を省くか全角文字を使用して頂けますと
  幸いです。