2008年06月14日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

「科学」に弱すぎる・・・メディアの問題点


こんにちは。水口です。
今日は、いつもの話題とは直接関係ないのですが、
「科学」と「メディア」についての話です。


■ 「水だけで走る自動車」の嘘

最近、いろいろなメディア(テレビなど)で取り上げられているようなのですが、
「水だけで走る自動車」が話題になっています。
(見た人もおられるのではないでしょうか)

その「水で走る」メカニズムの中心部分は「ウォーターエネルギーシステム」と
いう名前がついています。水を補給するだけで電気を生み出し、自動車を
走らせたり、その他の用途にも使えるというシステムだそうです。


「ウォーターエネルギーシステム」で検索すると、これについて言及している
ブログなどもいろいろ出てきます。そこで、もう語りつくされている感も
あるのですが・・・、このシステム、明らかにおかしいんですよね。

開発した会社の言い分では、

 1−水を水素と酸素に分解して

 2−その水素を使って発電する

 3−その電気を自動車等に利用する

というサイクルで成り立っているそうです。

ちなみに、この2と3の部分は、燃料電池車に使われている技術であり、
まともなものなのですが、「マユツバ」なのは1の部分です。

  水を水素と酸素に分解するためには、外部からエネルギーを加えるか、
  あるいは何らかの化学反応を起こさせるための物質が必要です※。

  ※ たとえば、金属ナトリウムに水をかけると水素が発生します。
     (発火したり、爆発したりするので大変危険ですが・・・)

  前者の「エネルギーを加える」場合は、そこで投入するエネルギーよりも、
  あとで(発電のときに)取り出せるエネルギーが高くなることはありません。
  これでは自動車は走りません。

  先のシステムは、そうではないようなので、何らかの化学物質を利用して
  水を分解していることになります。これを「水だけで発電する」と言うのは
  明らかに間違っています。


そんなこと以前に・・・、

水を加えて発電して、その結果、水が発生する、というシステムですから、
「水を水にする」ことで発電できると言っているのと同じです。

途中段階の反応はどうあれ、出発物質と生成物質が同じものなのに、
反応過程でエネルギーを取り出せるなんてことはあり得ません。

  【もう少し突っ込むと・・・】

  このシステムは、実際に動作させるデモンストレーションもしていますから、
  実態としては、「反応させるための化学物質をしこんである電池」である
  のは、間違いないと思います。

  つまり、「水を加えると反応が始まる」ようになっているだけで、基本的に
  普通の「使い捨て電池」と同じ。なかの化学物質が反応しきればおしまい。
  ということです。(もちろんエネルギー問題は解決しません)

  もちろん、そういうシステムが役に立つ場面もあるでしょうし、実際に
  「水を入れると反応する電池」は、商品化もされています。

  しかし、それを「水だけで走る自動車」と言うのは、かなり問題だと
  思います。(もし、「水だけで走る」「半永久的にに使用できる」と
  言い切っていたら詐欺といってもいいかもしれません)。
  【おわり】


■ メディアは「科学」に弱い?

このシステム(のうたい文句)に問題があるのは明らかですが、
そのことは置いておいて・・・私がおかしいなと思うのは、
メディアでの取り上げ方です。

科学的な(特に「化学」の分野の)知識があれば、このシステムが、
うたい文句通りに「水だけで走る」ものでないことはすぐわかります。

それなのに・・・、メディアでそのまま取り上げるのは、まずいような
気がします。


確かに、原油価格が高騰している時期には、とてもタイムリーな
ニュースですし、実際にデモンストレーションの車が走っている
映像もありますから、テレビ的にも使いやすいと思います。

しかし、明らかに科学的に矛盾している(あるいは、なにか重大な
ことを隠したまま発表している)企業の発表を、そのまま報道する
前に、誰かがストップをかけないものなんですかね・・・?
というのが、私が不思議に思うところです。

「メディアもだまされた被害者」だという意見もあるでしょうが、
上述の話は理系出身者(特に化学分野)の目で見れば、
「絶対儲かるという怪しい投資話」と同じくらいに「うさんくさい」
ものなのですが・・・。そちらは普通、報道しませんよね。



以前から感じているのですが、(特にテレビや雑誌の)メディアは
科学的な題材に弱いような気がしています。
(新聞は、まだいい方(扱いが慎重)のように思います)

私は以前、自動車に関連する仕事をしていたので、自動車関連の
新技術を解説する記事などは、気にして読んでいました。そのなかにも
解説の内容が間違っているものを見かけることが、ときどきありました。
こういうのは、ちょっと悲しくなります。


というわけで、私は

  テレビ、雑誌等のメディアに、もっと理系出身者が
  進出したほうがいい
  (メディアは理系出身者を一定数採用すべし)

と思っているのですが・・・、先の話でそれをあらためて
思い出したというわけです。


そういえば、日本は「科学雑誌」の人気が低いと聞きます。
そういう背景も影響しているのかもしれませんね。

理系の学生さん、メディアを目指してみませんか?
採用がどれくらいあるかは知りませんが・・・ (←無責任ですみません)




プロフィールには、学科(専攻)までは書いていませんが、
私は、大学と大学院で「化学」を専攻していました(専門は「分析化学」です)。

化学を勉強しておいて、日常的・実用的な面で良かったと思うことの1つが、
先の「水」の話のような「トンデモ科学」「疑似科学」的なものにだまされなく
なったことだったりします。


今日の記事作成時間は64分でした。
では、また明日!

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Posted by 水口和彦 at 23:55│Comments(2)TrackBack(2)

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「ウォーターエネルギーシステム」、水だけで発電するというのは明らかに間違い【NetSphere】at 2008年06月17日 08:01
こんにちは。水口です。 今日は「時間」や「仕事」の話ではありません。 「これはさすがにまずいなあ・・・」と思う報道があったので、 この場を借りて解説させて頂きます。 ■ リッター98kmの超低燃費車登場? テレビで取り上げられていたのですが、G....
またやってしまった!?  科学や技術に弱い 「メディア」 の問題点【時間管理術研究所 □□ 仕事と生き方、幸せの研究所 □□】at 2009年08月13日 06:00
この記事へのコメント
なるほどー。僕もそのニュースは見ました。で、ほぉ、電気自動車の充電の代わりをしてくれるのかぁ、すごいかも?と思ってしまいました。でも貴エントリでおかしなことに納得。メディアのいい加減さをチェックする仕組みとしてもブログオピニオンというのが機能するものですね、と感心しました。今後も楽しみに拝読します。
Posted by GNJ_G頑張ろう、N日本の、J人材! at 2008年06月15日 15:48
水口です。

GNJさん、ありがとうございます。

「メディアのいい加減さをチェックする仕組みとしてもブログオピニオンというのが機能する」

確かにそうですね。

このニュースは私に限らず、いろいろなブロガーの方が意見されています。こういうのって、
ある意味でとても健全なことだと思います。

「ブログ=新しいメディア」とはいかないかもしれませんが、
メディアの問題点を補完するものとしては、すでに機能し始めて
いるように思えます。これは実はすごいことかも・・・。

Posted by 水口和彦 at 2008年06月16日 18:04
 

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