2008年07月09日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

組織のフラット化における問題点と対策


こんにちは。水口です。
今日は一昨日の話の続きで、「組織のフラット化」についての話です。


■ 「組織のフラット化」は簡単ではない

一昨日、こんなことを書きました。

―――――――――――――――――――――――――――――――
しかし、「フラット型」には、明確な欠点があります。それをどう克服するか
という方策なしに、「フラット化」「情報の共有化」だけを進めても、決して
うまくいかない、というのが私の意見です。
―――――――――――――――――――――――――――――――
(この記事です→) 「強い課長の作り方」

「組織のフラット化」という言葉には、なんとなく良いイメージがあります。
自由で気さくなイメージだったり、民主的なイメージだったり、
官僚的でない若々しい組織のイメージだったり・・・。

しかし、イメージ先行で「フラット化すればうまくいく」と考えるのは、
危険だというのが私の意見です。

※ ここでいう「フラット化」は、個人として、社会としての「フラット化」
   ではなく、あくまでも「組織のフラット化」についての話です。
   また、私は「フラット化に絶対反対」というわけではありません。
   階層の多すぎる、官僚的すぎる組織はフラット化したほうがいいと
   思いますが、なんても「フラット化」すればいいというわけではないと
   言いたいわけです。


■ 3つの「組織のフラット化」

では、組織をフラット化すると、どんな問題があるのか? という
ことについて考えていきたいと思いますが・・・

その前に、「組織のフラット化」にもいくつかパターンがあるので、
それを整理しておきたいと思います。それぞれ、意味するところが
違います。


「組織のフラット化」には、次の3つのパターンが考えられます。
(勝手に名前をつけました)

1−少階層−多分岐化


  これは、組織の階層の数を減らすことです。
  係長−課長−部長−○○担当役員−社長という階層や、さらにその間
  に付加された階層など・・・そういう階層の数を減らすものです。
  企業で「組織のフラット化」というときは、多くはこのパターンを指します。

  階層の数が減るということは、当然1人のリーダー(この場合管理職)が
  見るメンバーの数は増えます。分岐(枝分かれ)が増えるので「多分岐化」
  というわけです。

2−完全フラット化


  これは、完全にフラットな組織になるということ、特にリーダーを設けない
  組織(というか集団?)です。

  こらは組織としての例はないと思います。ただ、「組織のフラット化」という
  言葉を使う際に、こういう組織をイメージされる方もいますので、区別する
  ためにあげておきました。また、「組織」という言葉が適切かどうかはわかり
  ませんが、フリーランスの人が集まって構成される「チーム」や、オープンソース
  のソフトウェアを開発している人たちがこれに近いです。

  この「完全フラット化」は自由で民主的なイメージがして良さそうですが、
  趣味的なチームや一時的なプロジェクトとしてならともかく、「組織としての
  仕事」を実行するには向いていません。「監督のいないチーム」は、平時には
  大丈夫でも、何か問題やトラブルが発生したときには弱いですから。

3−分散リーダー型


  「完全フラット」型と同じように特定のリーダーを設けない組織として、
  各プロジェクトごとに(役職と関係なく)リーダーを決めるというタイプの
  運用方法もあります。

  同じ人がプロジェクトごとに、リーダーになったりメンバーになったりする
  わけです。リーダーがたくさんいるので「分散リーダー型」というわけです。

  一部の業務にこの方式を導入している企業はたくさんあります。
  「プロジェクト制」と呼ばれるものがそうですし、「CFT(クロス・ファンク
  ショナル・チーム:部門横断組織)」もそうです。


■ それぞれの「フラット化」の問題点

では、それぞれの「組織のフラット化」にどんな問題があるか、
考えてみましょう。

1−少階層−多分岐化 の問題点


少階層化・多分岐化にともなう問題点は、情報の伝達に関するものです。
階層を減らせば、おのずとリーダー1人当たりのメンバー数が増えます。
ここで情報の伝達上の問題が出てきます。

情報の伝達には、
トップダウン(指示・方針の伝達)
ボトムアップ(問題点の吸い上げ・結果のフィードバック)
の2種類があります。

メンバー数が増えると、トップダウンはともかくとして、ボトムアップのほうに
問題が出てきます。これは「電子メールやネットの活用」では超えられない壁
です。

IT化は情報伝達にともなうコストと、伝達のスピードを向上させます。
しかし、肝心の情報の選別や、その情報に対するフィードバック(指導や
教育、アドバイス等々)は人が行うものですから、どうしても限界がある
わけです。

この限界はリーダーへの教育や、システムの作りこみによってある程度
高めることはできるでしょうが、それにも限界はあるでしょう。特に、
「現状維持」ではなく、組織の革新や業績の向上が必要な場合はなお
さらです。ですから、無理な多分岐化は一時的に機能することはあって
も、長期的には成立しないものです。
(長期的に見て「組織の革新」を必要としない業種など、現在は存在
 しないのではないでしょうか)

逆に言えば、もともと分岐が少ない階層については、その階層をカット
しても問題はないわけです。「階層」と呼ぶのが適切かどうかはわかり
ませんが、「部長代理」のような職制や、「○○担当役員」のような階層
がそれに当たります。
(そういう人たちが働いていないと言うつもりはありませんが、抜いても
 それほど支障が無いのは事実ではないでしょうか)


2−完全フラット化の問題点


これは言及するまでもありませんが、リーダー不在では組織として成り立ち
ません。たとえば、リーダー不在でも物事を民主的に(多数決で)決めて
いけばいいじゃないかという意見があるかもしれませんが、それでは長期的
にはうまくいきません。

これは監督不在のチームのようなものです。野球やサッカーで、もし監督が
いなくても1つの試合を戦うことはできると思います(戦力は落ちるとしても)。
しかし、長期的にチームの編成や補強を行っていくことは難しいでしょう。

また、この場合は誰も引き受けたがらないような問題が発生したときに、
押し付け合いになってしまい、機能しなくなる可能性があります。
先ほども言いましたが、「趣味的なチーム」や、1つの目標に特化した一時
的なプロジェクトとしては成り立つ可能性がありますが、それ以上は無理
だと考えます。

唯一例外があるとしたら、極めて高いモラルとプロフェッショナル意識を
持ったメンバーが集まる場合くらいでしょうか。
ある意味では理想ですが、実現が難しい形態です。


3−分散リーダー型


「分散リーダー型」は、実は私も1つの理想と考えている組織形態です。
しかし、普通に分散リーダー型(プロジェクト制)を推し進めていくと、
致命的な問題が発生します。

それは、プロジェクト間の利害関係を調整することができないことです。
プロジェクトが乱立して、メンバーのかけもち状況が入り組んでくると、
この問題は必ず起こると思います。

どのリーダーも、自分のプロジェクトのメンバーには、できるだけ多く働いて
もらいたいと思うのが普通です。ですから、各リーダー間で、メンバーの
工数(その仕事にさく時間)の取り合いになってしまいます。

これを避けるためには、各メンバーに動いてもらう工数をプロジェクトの
予算に組み込み、厳密に管理することが必須です。

しかし、それだけでは問題は解消しません。単に時給ベースで予算管理
しただけでは、実際には「お買い得」な人と、「そうでもない」人が出てきます。
そうすると、「お買い得」な人に仕事の依頼が殺到して調整がつかなくなり
ます。

※ ここで、「お買い得」な人本人の希望だけで選ばせるという方法も考え
   られますが、このやり方では組織全体として最適な人員配置になるとは
   限りません。嫌な言い方ですが、「面白い仕事」と「儲かる仕事」が一致
   するとは限らないですから。


この問題を解消するためには、「市場を作る」しか方法はないと思います。
各メンバーの工数に市場で値段をつけるわけです。人気がある人は当然
値段が高くなって、それだけ使いにくくなる・・・それでバランスが取れると
いうわけです。

(この「市場」については、以前もブログに書きましたのでご参考に↓)
「労働のパケット化」が進むと社内に「市場」が生まれる(1)
「労働のパケット化」が進むと社内に「市場」が生まれる(2)

この「市場」は、話としては合理的ですが、実際にやるのは難しいと思います。
言い出した私自身、「モラル的にどうなの?」 と思いますし。




・・・ずいぶん長くなってしまいましたが、

3つの「組織のフラット化」の問題点(と一部の対策)について、私の考えを
整理してみました。

今回、整理していて思ったのですが、「フラット化」の多くは、一時的には
機能しても、長期的に機能させるのは難しいように思います。

特に言えるのが、平時はいいにしても、問題やトラブルが起こった場合や、
将来を見すえて組織を変革していく場合には、フラット化は適さないですね。

・・・裏を返せば、そういうときほどリーダーシップが必要なので、
   当たり前といえば当たり前の結論ですが。


こういった問題点に対しての策を持たずにフラット化しても、うまくは
いかないと思います(もともと不要な階層の場合は別です)。

「IT技術が進めば、フラット化が加速する」的な楽観論を述べる人も
少なくないので、あえて苦言を呈してみました。

今日の話は、私の経験(一応大きめの組織に十数年いました)から感じた
こともいろいろ含まれています。逆に、大組織でもまれた経験の多い人に
とっては「釈迦に説法」な話だったかもしれませんが、お許しください。



今日の記事作成時間は103分でした。
では、また明日!



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Posted by 水口和彦 at 23:30│Comments(3)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
こんにちは。いつも楽しく拝読しております。さて、
>「組織のフラット化」という言葉には、なんとなく良いイメージがあります。自由で気さくなイメージだったり、民主的なイメージだったり、官僚的でない若々しい組織のイメージだったり・・・。
とのことですが、それは単にイメージ的なメリットですよね。
貴殿のエントリには「フラット化を何のために導入するのか?」というもっとも重要な視点(仮説)が抜けているように思います。それは、
決断を速くして、すぐに実行に移すためだと僕は思います。
それが実現可能にならない状況の時のみ、フラット化の問題(弊害)が生じると思うのですが、いかがでしょうか?
単に制度的な瑕疵を論じても意味がないと思います。
Posted by zosojh at 2008年07月10日 01:17
水口さん

早速、私のリクエストに応えていただき、詳しいご説明ありがとうございます。

私のイメージしていたフラット化は、「1−少階層−多分岐化」と「3−分散リーダー型」でした。

要約させていただくと「少階層ー多分岐化」はリーダーの能力の限界、「分散リーダー型」はメンバーの時間というリソースの争奪、というように読み取りましたが、なるほど納得です。

zosojhさんのおっしゃるとおりフラット化の一番のねらいは、変化の激しい今の時代において、素早い意思決定を行い、組織や組織の様々な施策をスピーディーに展開していくことにあると考えています。

しかし、前述した問題のために、その目的を達成できない、あるいはある程度達成できたとしても、その反作用が別の形で顕在化してくるということですかね。

なかなか難しいですね。
とても勉強になりました。
Posted by makoto at 2008年07月10日 02:17
初めまして、芹沢翼と言います。今回初めて記事の方を拝見しました。

現在、大学生4年生で経営学を勉強しています。

この記事を拝見してとても勉強になりました。組織には必ずメリット、デメリットがありそれを上手く補完していくのがベストですかね?

Posted by 芹沢 翼 at 2013年10月12日 12:43
 

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