2008年07月23日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

「筆算効果」と「筆算理論」: 用語解説


こんにちは。水口です。
今日は用語解説をします。

今日の用語は「筆算効果」と「筆算理論」です。


■ 「筆算効果」とは?

「筆算効果」というのは、

  暗算ではできない計算が、筆算なら簡単にできてしまうこと

を指します。

たとえば、次の計算を暗算でやれる方は少ないと思います。
しかし、筆算なら簡単にできますよね。
(筆算なら多少時間はかかるとはいえ、確実に簡単に答を出せます)

  83721937 + 43729278 =


これが暗算でできない理由は、1桁ずつ計算をしていく過程で、
すでに計算が終わった桁の数字を記憶しておくのが難しいからです。

これは頭のなかで操作や保持できる記憶の容量が、それほど大きく
ないということを示しています。


※ 【余談です: 読み飛ばしてもOK】
   このような、頭の中で一時的に保持する記憶のことを「短期記憶」または
   「作動記憶」と呼びます。1956年に心理学者のG.A.ミラー氏が発表した
   「The Magical Number Seven, Plus or Minus Two」という論文が有名です。

   ミラー氏の実験では、0か1の情報を記憶するというもの(2進法)でしたが、
   10進法の数字の場合も覚えられる桁数は7桁前後になるのが不思議な
   ところです(数学的には、2進法の7桁は7ビット相当、10進法の7桁は
   23ビット以上に相当しますから)。

   人間の短期記憶の容量は、コンピュータと違って数学的な情報量(ビット数)
   ではなく、「チャンク」と呼ばれる情報の単位の数で決まってくるそうです。
   たとえば、「DOGCAT」という文字を覚える場合、英語を知らない人の場合は
   6個のアルファベットなので6チャンク、英語を知っている場合は「DOG(犬)」
   と「CAT(猫)」という2単語、2チャンクとして処理されるとのこと。
   数字の羅列を語呂合わせすると覚えやすくなるのも同じ理由です。
   この「チャンク」も上記のミラー氏が提唱したそうです。
   【余談終わり】


この「筆算効果」は普段忘れがちなことですが、とても重要なことを示しています。
それは・・・

  (計算に関して言えば)どんなに賢い人でもできないことが、
  紙1枚とペンがあれば、小学生でもできてしまう。

ということです。これを逆にいえば・・・

  どんなに賢い人でも、「書く」ことによって頭の中を整理することを
  怠ると、思考力が小学生レベル以下に落ちてしまう

となります。こう考えると、ちょっと怖いですね。

※ この「どんなに賢い人」には、「ソロバン名人」のような人は除きます。
  (こういう人は数字をソロバンの珠でイメージするなどの方法で
   記憶の使い方が少し違うからです)


このように、計算問題においては「筆算効果」は非常にわかりやすい形で表れます。

計算問題において、「書くか書かないか」という違いは、個人の能力差よりも
はるかに大きいことが容易にわかります。


しかし、短期記憶のメカニズムから考えれば、この「筆算効果」は計算問題に
限らないはずで、すべての問題解決や意思決定のプロセスに影響しているという
仮説が成り立ちます。これが「筆算理論」です。


■ 筆算理論とは?

「筆算理論」とは、こういうことです。

  頭の中だけで考えるよりも、書いて、それを見ながら考える方が、
  より短時間で結論を出せたり、より良い答えが見つかる


上記のような単純な計算問題だけでなく、他の「考える」過程においても、
「筆算効果」があるという仮説です。


※ 【またまた余談です: 読み飛ばしてもOK】
   この「筆算理論」、今回の話の流れを読むと、計算問題や短期記憶の
   ことからの演繹で生まれてきたように見えるかもしれませんが、実際は
   違います。もともと私がこれを意識するようになったのは、時間管理に
   ついていろいろ試してみた中で感じたことが始まりです。見開き1日式の
   手帳よりも、見開き1週間式の方が、明らかにプランを立てやすいのは
   なぜなんだろう・・・? という疑問です。

   また、仕事がとても忙しく、素早い意思決定が必要なことが多い時期に
   考えたことをメモしながら仕事を進めるようにしたところ、意思決定の
   スピードや精度が高まった上に、全般的な仕事の能率が上がったことを
   感じました。それ以降、その原因が何なのか? という疑問を持っていた
   のですが、それをうまく説明できるのが上記の「筆算効果」だったのです。
   【余談終わり】



■ 「筆算効果」の例

「筆算効果」を発揮するには、とにかく「書いて」「見て」「考える」ことが必要に
なります。

特定のフォーマットに沿って考えなければならない、というわけではありませんが、
必要に応じて、図で表したり、表にしたりしたほうが整理しやすいと感じます。

最近注目の「マインドマップ」や各種フレームワーク類も、「書く」ことと、
それを「見ながら」「考える」「発想する」というところに共通点があります。
これらも筆算効果(+それぞれのフォーマットの効果)が表れているのでは
ないかと考えています。


※ 【またまた余談です: 読み飛ばしてもOK】
   私は各フォーマットの効果もそれぞれ感じていますが、そのフォーマットの
   効果以上に「書く」ことと「書かない」ことの差の方が大きいと感じます。

   これは仮説ですが・・・
   「マインドマップを大絶賛する人」=それまで「書く」習慣が無かった人
   「マインドマップもいいよね」という人=すでに「書く」習慣があった人
   ということになっているような気がします。
   【余談終わり】


この「筆算理論」には、もう少し続きがあります。
どんな問題でも等しく「筆算効果」が発揮されるとは限りません。


■ 「筆算効果」が発揮される条件

「筆算効果」は、次のいずれかの条件を満たす場合に、その効果が
特に高くなります。

  筆算効果が発揮される条件

  ・経験が少ないことについて考える場合
  ・考慮すべき因子の数が多い場合

  いずれかに当てはまる場合に、「筆算効果」が強く発揮される


短期記憶のメカニズムから考えると、このようになるはずですし、
経験上も納得できることが多いです。↓以下その解説です。


まず、ある分野で多くの経験を積んだ人は、他の人には複雑に見える問題に、
一瞬で答を出すことができる場合があります。

これは、「こういう場合にはこうしたほうがいい」という、結論を導くまでの過程が
一種の「チャンク」になっているのだと考えられます。こういう場合、つまり、経験が
豊富で得意な分野の場合、「筆算効果」はあまり無い場合があります。
(この場合、意思決定は極めて速く、「即断即決」という感じになります)

経験の少ない人が同じことをやろうとしても、できないか混乱するばかりですが、
書いて整理しながら進めれば、思考力・判断力をかなり補うことができます。
(この場合は「筆算効果」が高いわけです)


また、同じ分野の問題でも、考慮すべき因子が少ない場合には頭の中だけ
でも処理できます。

たとえば、ある製品の仕入先を選定しなければいけないとします。
A社とB社がまったく同じ製品を扱っていて、考慮すべき因子が「価格」と
「信用」くらいなら、比較的すぐに判断できます。この場合「筆算効果」は
あまりありません。

しかし、A社とB社それぞれの製品で仕様が微妙に違い、品質も価格も納期
も微妙に違い、さらに担当者の対応の良さや、会社としての信用も違ったり、
さらに供給安定性やISO認証の有無等々・・・いろいろな条件が微妙な感じ
だと判断に迷うこともあります。このときは、各因子を表のように書き出し、
それを見るだけでかなり頭が整理されますし、自信を持って判断できるように
なってきます。これも「筆算効果」です。


さらにシンプルにまとめるならば・・・、

  「即断即決」できる場合は書く必要はない(筆算効果がない)
  「考え込む」「悩む」場合には書くべきである(筆算効果がある)

といっていいと思います。

「考え込む」「悩む」というのは、どんな状態か? という基準は特にありませんが、
個人的には「1分間以上手を止めて考えてしまうようなら、書いたほうがいい」と
いうくらいに考えています。「どうせ考えるのなら、メモしながら考えようよ」という
ことです。


■ 「筆算効果」の限界

この「筆算効果」は、「考える」こと全般において威力を発揮しますし、
上記の条件を満たす場合、特に効果が高くなります。

ただし、この「筆算効果」を用いても、結論が出せないケースもあります。

その典型的な例は・・・恋愛関係です。
「Aさんとつきあうべきか否か?」という、悩ましくもうれしい悩み(笑)が
あったとして、たとえばそれを「つきあうメリットとデメリット」と書き出して
整理すれば決断できるか・・・といえば、そうでもないと思います。
(頭はある程度整理できるとは思いますが)

これと同じように、「感情」と強く結びついた問題の場合、「筆算効果」の
ように書き出して整理するだけでは判断しきれない場合があります。
たとえば、「あいつに頭を下げるのはシャクだから頼みたくない」なんて
考えてしまうケースです。

  筆算効果では対処できないケース

  ・その問題について感情的になってしまう場合

  この場合は「自分の感情と向き合う」ことなしには結論が出せない


こういう場合には、「筆算効果」だけでなく、自分の感情と向き合うことが
どうしても必要になります。これはどんな意思決定手法・問題解決手法を
使ったとしても同じことです。




というのが、「筆算効果」「筆算理論」についてのまとめでした。

簡単にいうと、「書きながら(メモしながら)考えると、悩まなくて済むよ」と
いうことです。私自身もやっていますし、やってみた方々からも評判がいい
ですので、ちょっと意識して実行してみてはいかがでしょうか。そして、良い
結果が得られたらご友人や職場でも広めて頂けると幸いです。



ちなみに「筆算効果」「筆算理論」というのは造語です。
(他に適当な言葉が見つからなかったため作りました)
使い分けは次のように考えています。

  「書くことの効果」そのものを指す言葉 → 「筆算効果」

  「筆算効果」が計算問題以外にも   → 「筆算理論」
  幅広く適用できるという仮説



今日の記事作成時間はトータルで125分でした。
では、また明日!



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Posted by 水口和彦 at 23:55│Comments(0)TrackBack(0)

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