2011年12月26日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

本の「自炊」はいけないことなのか?


こんにちは。水口です。

今日は「電子書籍」関連した「自炊」の話です。
マニアックな話なので、興味のない方はスルーしちゃってください。
(自分でスルーを勧めるブログって珍しいですかね・・・(笑) )


■ 本の「自炊」に興味がありますか?

「電子書籍」を使ってみたいけど、まだ手が出せない・・・
(プラットフォームは統一されないし、ラインナップは少ないし・・・)
と思っている人は多いと思います(私もその一人です)。

「それなら、自分で書籍をスキャンして電子化すればいいじゃない」
という人が始めているのが、いわゆる「自炊」と呼ばれるもので、
紙の書籍をスキャンして電子化(pdfファイルとかに)する手法です。

書籍をスキャンするには「裁断→シートフィードスキャナーでスキャン」
という手順を踏みます。スキャナーが手頃になり、PCが高性能に
なったおかげで、昔よりも、こうした作業は身近になりました。

でも、やっぱりちょっと面倒だし、裁断機がないと自炊がしにくいという
のもハードルの高さを感じます。そこで、そのスキャンを代行するという
業者が現れたというのが、昨年あたりからの「自炊」関係の動きでした。

その「スキャン代行」という業態が、著作権上問題があるのではないか?
という議論は以前からありましたが、判例もないため、白黒はっきりして
いなかった・・・というのが現状。そのため利用してみたいと思うけど、
ちょっとためらってしまうという人も多かったのではないでしょうか。


■ 作家が「自炊」業者を提訴

こんなニュースがありました。

東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図
(ITmedia eBook USER) - Yahoo!ニュース


『』内は引用です)

『 スキャン代行業者に対して著作権者がとうとうアクションを起こした――
浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史
氏、武論尊氏の7名を原告とし、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製
権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が12月20日に東京地方
裁判所に提起された。(中略)

 ここで問題となったのは、著作権法違反ではないかというものだ。著作権法
では、著作物の私的使用を目的とする場合は、その「使用する者が複製する
ことができる」と定められている。このため、ユーザーが自分で“自炊”を行うこと
は何ら問題なかったわけだ。しかし、代行業者は“使用する者”ではないため、
著作権法の複製権侵害に当たるというのが問題のおおまかな説明だ。条文に
当たれば違法だが、これまでは判例もなく、グレーゾーンでの運用が続いていた。
著作権侵害を回避するためのアイデアも登場してはいたが、スキャン代行業者
を複製の主体とみなす判例を作ろうとするのが今回の提訴の目的といえる。
(中略)

 記者説明会の会場にはオークションに出品されていた裁断済みの本が大量に
並べられていた。実際にこうした行為を行っているのはユーザーである可能性も
高く、あくまで「こんな状況がある」というのを示すためのものでしかないが、それ
に間接的にでも関与し得るスキャン代行業者には一定の非があるという論調
だった。ユーザー自身が自分でスキャンしていたら、著作権者には一銭も入らな
いのに、業者がスキャンしたら損害であるというのはやや合理性に欠ける部分も
あるが、その辺りを違法流通への懸念として“丸めた”ように思う。実際、今回の
訴状では、スキャン代行業者に依頼したエンドユーザーの責任などは趣旨と外れ
ることもあって特に触れられていない(共同主体と仮定されている程度)。
(後略)』


                                 (上記サイトより引用)

こうした訴訟はいずれあるだろうと思っていましたし、
白黒はっきりさせるためには必要なことだと思います。

ただ、この記者会見の内容には、ちょっと違和感も覚えます。


■ 自炊代行がダメ? 自炊もダメ?

「裁断済みの本がオークションにかけられている」という状況は、
私個人としても、良くないことだと思います。

ただ、私が良くないと思うのは、本をデータ化した後に売却するという行為
であって、裁断する行為そのものではありません。

裁断済みであれ、売却するのは、所有権を譲渡したことになるわけで、
そうなれば、その本を読む(データとして利用する)こともすべきではない。
所有しているからこそ、私的複製したデータも利用できる。私はそう思う
ので、データを手元に残して本を売却するのは反則という気がします。

もし、オークションに出した人が、データは手元に残しているとすれば、
厳密には著作権法に違反するのではないでしょうか?
(実質的には確かめようがないですが)


・・・という論点なら納得いくのですが、上記の記者会見では「裁断すること」
そのものが悪いと主張しているようで、「論旨のすり替え」を感じます。

「自炊代行」を批判するついでに、「自炊」そのものも批判しているような、
「スキャン代行業者」だけでなく、「自分でスキャンする人」も含めて牽制する
意図があるような・・・ そんな感じで、いいやり方とは思えません。

作家が「自分の本を裁断しないで欲しい」と読者に「お願い」するのは自由
ですが、裁断すること自体が「違法」であるかのような印象付けをしようと
するのは、ちょっと見苦しいような気がします。

所有物である本を裁断するのは持ち主の自由だし、(私的利用ならば)
電子化するのも持ち主の自由。法的に許された、持ち主の権利です。
ですから、それを「代行すること」の是非に論点を絞るべきだと思います。


■ 私の本は?

かくいう私自身も本を書いてますから(いつの間にか10冊も!)、
本の「著作権者」ではあります。

その立場としていえば、本が裁断されるのは寂しいもの。でも、電子化
されたものであれ、読んでもらえる(あるいはいつかまた再読してもらえる)
のなら、それはそれでうれしいことです。
(普通に読む用と自炊用で2冊買ってくれると、もっとうれしいです (笑))

ですから、「裁断した本を売却する」のは反則だと思いますが、
「自炊」そのものを否定する気はありません。

※ 私の場合、本の執筆が本業(主たる収入源)ではないので、
   専業の作家さんとは感覚が違うかもしれませんが・・・。
   でも、私と同様の考えを持つ作家さんも結構いるのでは?。
   (『海猿』『ブラよろ』の佐藤秀峰さんもそんな感じみたいです↓)
   佐藤秀峰 日記 | 漫画 on Web


■ 本の所有権はどこにある?

先の提訴や記者会見の話からはちょっとそれますが、よくよく考えてみると、
この問題は結構根が深いように思えます。

従来なら、(物としての)本と、本の内容(データ)は不可分のものでした。
「物」としての本と、本を「読む権利」が不可分だったわけです。

だから話は簡単で、たとえば、本を古本屋に売る場合、「物」としての本と、
本を「読む権利」を同時に売ったと解釈できました(買う場合も同様です)。


しかし、今はスキャンという手段で、「物」としての本を手放したとしても、
その本を「読む権利」を手元に残すことが可能になりました。

ですから、「物」としての本を人に売った後も、「読む権利」を行使することも
できるわけですが、これは合法なのでしょうか?
(個人的には(厳密には)違法だと思っているのですが・・・)


では、「物」としての本を廃棄した場合はどうか? たとえば、スキャンした
データを手元に残し、裁断済みの本を廃棄した場合はどうでしょう。

「物」としての本を廃棄するのは、(物としての)所有権を放棄するのと同じ。
それでも「読む権利」を維持していると考えていいのでしょうか?
(個人的には「読む権利」は維持していると思っているのですが・・・)


あるいは、そんなややこしいことは考える必要はなくって、コピーを第三者に
配布する以外は、ほぼ「何でもあり」になるのかもしれません。実際、CDは
実質的にそんな感じになっています(自分で聞く用途に限っていえば)。

だからCDが売れなくなったのかもしれないし、本がそんなふうになってしまう
のは困る・・・という意見はあるでしょう(私だってそうなってほしくはないし)。
でも、それと法的な判断は別です。


今後、今回の提訴をはじめとして、いろいろな判例が出てくると思いますが、
見守っていきたいと思います。



今日の記事作成時間は60分でした。
では、また次回!


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Posted by 水口和彦 at 08:00│Comments(0)TrackBack(0)

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