2008年08月11日     このエントリーをはてなにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマーク

「レーザーレーサー」のような製品を生み出す「ノウハウ」はあるのか?


こんにちは。水口です。
今日は珍しく、時事ネタから・・・


■ 日本の企業に「レーザーレーサー」が開発できない理由?

もうご存じかと思いますが、こんなニュースがありました。

五輪=北島が100m平泳ぎで世界新、連覇に海外のライバル脱帽
| スポーツ | Reuters


あと、昨日の記事にはこういうのも↓
決勝初日の金はすべてLR/競泳
(1/2ページ) - スポーツ - SANSPO.COM


北島選手の金メダル×世界新はすごいですね・・・というのはもちろんとして、
やはりレーザーレーサーもすごいぞ・・・という話です。


さて・・・、

「レーザーレーサーがすごい」という話の一方で、「なぜ日本のメーカーは
開発に遅れをとったのか?」と言う人もいます。


先に、私の考えを述べておくと・・・

  レーザーレーサーは「体をしめつけることで水の抵抗を少なくする」という
  発想に基づいて開発されたものであり、従来の常識をくつがえす製品、
  かなり「発明」に近い製品だと思います。

  他国が新しい発明をするたびに、「なぜ日本で発明できないのか?」なんて
  言うのがナンセンスなのと同じで、「なぜ日本でレーザーレーサーのような製品
  が開発できなかったのか?」なんて言うのは基本的にナンセンスだと思います。

と思うのですが、それはそれとして、レーザーレーサーのような製品を開発するため
には何が必要なのか? という命題について、思うことがあるのでその話を・・・



レーザーレーサーは、「選手の声」をいくら聞いても開発できる製品ではないと
思います(普通は「動きやすい水着の方がいい」と言うでしょう・・・)。

これは「選手の期待に応える」製品ではなく、
「選手も予想していなかった」製品です。

これを他の製品に例えていうと、いくら「消費者アンケート」や「マーケット調査」を
重ねても、レーザーレーサーのような革新的な製品を生み出すことはできないと
いうことです。

・・・このことを前提とした、ちょっと気になる意見に、

  「顧客(選手)の声を聞くばかりではなく、技術主導型の開発が
   必要だ。日本も見習わなければ・・・」 

という意見があります。


しかし、これは失礼な話です。
もともと、日本の企業は技術主導型の開発の方が得意でしたから。


■ プロダクトアウト(=技術主導型の開発)の例

古い例ですみませんが、日本企業の「技術主導型」の典型的な例は
「ウォークマン」です。

後にCDやハードディスク、フラッシュメモリ(MP3)などに取って代わられるとは
いえ、初代のウォークマンは相当に革新的な製品でした。

そもそも、ウォークマン以前は「ヘッドホンを付けて外を歩く」という習慣が
どこにも無かったんです。つまり、「ウォークマン以前」と「以後」で、音楽の
楽しみ方が大きく変わったわけです。少し大げさに言えば、1つの「文化」を
作ったといってもいいくらいです。

  【余談です】
  そのウォークマンを開発したソニーが、ゲーム機の世界では既存製品の
  延長線上にある製品(高性能ではあるけれど・・・)を出し、任天堂が
  「消費者の予想を超える」遊び方を提案するWiiを出してきたことが、
  ソニーの「プロダクトアウト力」の低下を象徴している・・・ と言ったら、
  言い過ぎでしょうか・・・?  (私はもう長いことゲーム機買ってないので
  ゲーム機としてどちらが面白いのかは分かりませんが・・・)
   【余談終わり】


この「ウォークマン」や「CD」は、消費者の期待に応える製品ではなく、
「消費者が想像もしてなかった」製品の例といっていいと思います。

しかし、高度経済成長期が終わり低成長になったことと(多分)リンクして、
「顧客の声を聞くことが重要」ということに焦点が当てられるようになり、
そこまではいいとしても・・・、

  「プロダクトアウト」ではダメ。「マーケットイン」でなければいけない。

なんてことが言われたりもしました。

※ プロダクトアウトが技術主導の開発。
  マーケットインがユーザーニーズを重視した開発です。


私はこの論調が嫌いです。

確かに、「プロダクトアウト」的な製品は、「技術者のひとりよがり」になる場合
もあります。また、顧客の声を聞くことが重要なのも異論がありません。

しかし、どんな製品にも「プロダクトアウト」的な開発が絶対に必要です。
もし、「マーケットイン」的な開発しかできなくなってしまえば、その組織は
「便利だけどつまんない製品」しか作れなくなってしまいかねません。


そして、現在の日本の企業は、「プロダクトアウト」の力が低下しているように
思えます(あくまで全般的な話で、個別に見れば面白い事例はあります)。

研究開発費の削減や、進学や就職の「理系」不人気など、その要因は
たくさんありますし、将来さらに厳しい状況になると予想されます。

いま一度、多くの企業に「プロダクトアウト」する力を蓄えることを見直して
みてほしい・・・そう思います。


■ 大学や研究所との連携で革新的な製品が生まれるか?

レーザーレーサーの開発には、スピード社だけでなく、多くの大学や研究機関が
関わっていることは有名な話です。

ですから、

  「大学や研究機関との連携を活用すれば、
   画期的な製品を生み出すことも夢じゃない」

ということを言う人もいると思いますが・・・、私は元技術者の感覚として、
これはちょっと違うような気がします。


元技術者として思うのですが・・・、本当に面白い製品や革新的な製品は、
エンジニアのこだわりや熱意を核にして生まれてくるものだと思っています。

自分自身の感覚としてもそう思いますし※、いろいろな製品の「開発秘話」的
なものを聞いてもそう思います。

※ 一応、私もある分野で、十年に一度あるかないかのヒット製品を
   開発した事実があるので、多少は発言権があるでしょう・・・。


本当に革新的な製品を作り出せる「プロダクトアウト力」は、共同研究をすれば
生まれてくるというものではなく、もっと「個人」(またはチーム)に根ざしたもの
だと感じます。

徹底したこだわりや研究・開発に対する熱意といった、かなり「属人的」な
要素が、本当の意味での「プロダクトアウト力」につながっていると思います。

それだけの熱意があるからこそ、「最高の技術を求めて」あるいは、
「使えるものは何でも使う」という覚悟で、あちこちの研究機関と連携して
開発を進めたのではないでしょうか。

いろんな研究機関と連携したのは、あくまで結果としてそうなっただけで、
研究機関と連携すればいいものができるとは限らないということです。


それよりも、「個人」や「チーム」のこだわりや熱意、目的意識などが鍵に
なっているような気がします。また、そういう人(やチーム)を育てられる
環境があるかどうかが、革新的な製品を生み出せるかどうかの違いに
結びつくように思います。これは難しいことではありますが。

これは別に「熱いチームを作れ」といいたいわけではありません (私は
そういうのも結構好きですが)。 たとえば、2002年にノーベル化学賞を
受賞した田中耕一さんのような、一見静かだけど、内に強いこだわりや
熱意を持ったタイプの人もいると思います。



やや話が発散気味でしたが・・・ (汗)

  ノウハウ論をあれこれ言うのは簡単だけど・・・
  表面上のことを整備しても、「レーザーレーサー」は作れない

  必要なのは、熱意を持った(もちろん能力もある)エンジニア、
  あるいは「エンジニアの熱意に火をつけられる人」である

  (もちろん、開発を許す環境やある程度の予算も必要です)


ということを言いたかったのでした。
長文失礼致しました。



今日の記事作成時間は70分でした。
では、また明日!



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Posted by 水口和彦 at 23:55│Comments(0)TrackBack(0)

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